声明は、仏教伝来とともに日本に伝えられたと言われているので、その歴史は古く、今から約1500年程前、奈良・平安時代まで遡る。声明は、仏教儀式の伝統的声楽曲で真言、経文などに節をつけて唱えられるが、原則として僧侶の男声によって、単旋律を独唱または斉唱する。声明は、平曲、謡曲、浄瑠璃など語り物の声楽のルーツでもあり、いわば日本音楽の原点とも言えるものだ。それは童歌まで受け継がれていく。西洋には同じく宗教音楽としてグレゴリオ聖歌があるが、ローマ・カトリック教会のラテン語典礼文を歌詞とし、単旋律で、無伴奏でうたわれる。教皇グレゴリウス1世がその起源と言われるので、日本に声明という宗教音楽が芽生える時期とほぼ時代がシンクロする。声明とグレゴリオ聖歌は人間の肉声の響きのみによって構成される音楽だが、その趣はまったく異なるものだ。それはキリスト教と仏教という宗教性、世界観の違いが深く反映されているのだろう。前者が天上的な神の国との一体感を生み出すものであるなら、後者は厭離的な浄土への希求が響いてくる。感覚的には「光」と「空(くう)」の違いを体感させられるのではないだろうか。どちらも闇に広がるエッセンスである。21世紀、世相は暗く不安の時代をわれわれは生きている。かつて末法の世、乱世の中、声明や琵琶の音に耳を傾ける民衆がいた。人々は何を思い、何を心の支えとして生きていたのだろうか。(鬼楽)