西洋音楽におけるシンフォニーは、近世の芸術ジャンルの中で最も優れた表現形態であり、その流れは現代に脈々と受け継がれ、今なおそれらの楽曲は多くの人々に愛されているのは周知の通りである。その起源は9世紀に始まるポリフォニー(多声音楽)とも言われ、時代とともにより複雑で重厚な構造を生み出していく。強大なカソリック勢力や権力者と時に結びつき発展してきた西洋音楽の表舞台は、主として教会や宮廷、劇場である。ハレの場でのカタルシス(浄化)と陶酔の時間が生成された。箏をはじめとする日本の器楽音楽は、雅楽を除けば概ね世俗の中で培われてきたと言っていいだろう。それは自然と対峙する壮大で聖なる世界観ではなく、自然と日常への親和性であり打ち震える情念の機微と言えるのかも知れない。端正な演奏で聴衆を充分に惹きつけた箏奏者井関一博。この日のライブの中でもとりわけ沢井比可流作曲「凛」は、清水のように流れるその美しい旋律がいつまでも心に残った。その作品性と演奏に少しでも触れていただければと思う。(鬼楽)